東京地方裁判所 昭和42年(ワ)7834号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕本件事故が原告主張の日時、場所において、タクシー運転手武笠の急停車による乗客たる原告の負傷として発生したことは当事者間に争いがない。
また、被告は、右タクシーの運行供用者であることを争わない。
よつて、免責要件について主張、立証のない本件では、被告は原告の本件事故による損害については賠償の義務ありといわねばならない。
そこで、損害額の算定に入るに先立ち、被告主張の過失相殺について証拠を案ずるに、証人武笠の証言には、原告が正座していた旨被告主張に副う供述が見られるが、原告本人の供述に照らし、また、洋装を常とし、年齢も四十才であると認められることから考えると、たとえ、職業柄歩きくたびれる等の事情があつたとしても、座席上に正座したのを注意したとの武笠の右供述は心証を惹くに足りない。然しながら、同証人がスリップ痕を三〇糎位と、原告本人が数米と甚だ異なる供述をしている点については、事故が狭い通りから広い通りに出る前であつて、常識上左程の高速とは考えられぬ状況である点に徴し、当裁判所は武笠の当時二〇ないし二五粁時との供述を真相に近いものと考えるのであつて、従つて、また、その程度の速度の際における急停車によつて姿勢が崩れ、負傷したということからは、原告自身の座席における姿勢保持に不十分なものがあつたことを推認してよいと考える。そして今日のような交通状況においては、タクシーの乗客と雖も、姿勢をなるべく安固に保持すべき相応の義務を負うのであつて、これを怠つたことによつて負傷した場合には、損害算定にあたり右の過失を斟酌して当然である。
進んで、原告主張の損害について審按するに、原告がその主張のような負傷をしたことは当事者間に争いないが、通院により一ケ月の間勤務から離れたとの主張は、原告本人のこれに副う供述は必ずしも措信しえず、結局肯認しえない。けだし<証拠>によれば、診療実日数は七日であり、その診療内容も内服薬、外用薬の程度であつて、原告本人の当事者訊問における「注射を受けた」との供述を裏付ける資料はないのであるし、また右供述によれば、原告が自宅(肩書地)と離れた豊島区西池袋の西沢医院を通院先に選んだのは、勤先である住友生命保険相互株式会社の北支社が近くにあつたからであることが認められる。従つて、一ケ月の通院期間中の負傷による収入喪失は平常の月収の二分の一と見れば十分である。原告本人の供述とこれにより成立を認めうる甲第一号証の二によれば、昭和四一年度の平均月収は諸経費を三〇パーセントと見、一一・五月稼動としたとき、一〇万円強であるから、右二分の一は、五万円となるが、前記過失相殺を斟酌して、四万円とする。
次に慰藉料については、以上判示の諸事情を総合し、五万円を相当と認める。(倉田卓次)